日本では建築家として有名なメレル・ヴォーリズ。
その妻 一柳(ひとつやなぎ)満喜子の生涯を描いた小説です。
小説とはいえ、実在の人物なのである程度の事実に基づいて描かれているのだと思います。
明治の初期にはまだ身分制度が残っていたのですね。
身分違いの結婚は許されず、結婚しないと家の恥とされていたようです。
学校ですら身分相応の学校に入学するのが一般的だったとは知りませんでした。
そんな社会の中で一人の女性が人間的に生きるにはなかなか苦労の多い時代だったことだと思います。
ヴォーリズと満喜子のツーショットの写真が上下巻にそれぞれ載っています。
小説では「大きな見開いた目」と形容されていますがむしろ年齢を経た写真の方が鋭い眼光の印象を受けました。
下巻の写真ではヴォーリズが満喜子に寄り添っているのが微笑ましいです。
この時代は、まだ一夫一婦制度でもなかったのかと改めて時代の重苦しさを感じました。
そのためにどれだけの女性が悩み苦しんだことでしょう。
お互いに思いを寄せていても身分の違いで結婚が許されずそれを吹っ切るためにアメリカへ向かいます。
上巻はここで終わります。
そして下巻へ。
満喜子については全く予備知識がなかったのでこの下巻で記された彼女の生き様に呆然とした、というのはオーバーでしょうか。
ヴォーリズと再会して障害を乗り越えて国際結婚して共に歩みます。
その歩み方がすごいし、それをまた見守るヴォーリズも凄いです。
少し横道にそれますが子どもながらに家にある「メンソレータム」という薬の会社が「近江兄弟社」という変わった名前に凄く興味を持っていました。
そしてその会社に学校があることを知りこれまた興味深かったのです。
でもそれは学校が先にあり、メンソレータムの販売はあくまでも資金源として存在していたのであって会社に学校があったのではないということをこの本で知りました。
ヴォーリズについても上っ面の知識しかなくて近江兄弟社の創始者とは知らなかったのは少し恥ずかしい思いです。
その学校運営に熱心に携わったのがこの満喜子だったのです。
華族である満喜子、そして子どもを生んでいないということが彼女の評価を左右することが何度もあったようです。
それにしても強い。
戦時中は軽井沢に幽閉されていたことも知りました。
そこでも満喜子は子ども達を集めて勉強する場所を作ります。
特に女子の教育については確固たる思いがあったのが伺えます。
そして最後の方に少し記されていたこと。
それはマッカッサーに天皇についての日本人の意識を助言したということ。
「The symbol of the nation」
「負けんとき」
大阪の商人には「勝たずに相手に花を持たせる。でも負けない。」そういう思想があったのですね。
大同生命の創始者、廣岡浅子という人物も初めて知りました。
日本女子大の創立発起人でもあるそうです。
大阪にはこんな凄い女性がいたのかと・・・。
浅子が満喜子に助言したことば。それが「負けんとき」です。
「負けんとき」という言葉に満喜子はきっと何度も勇気を得たのだと思います。
図書館ではたくさん予約がついていてなかなか借りられなかったのですがAmazonでのレビューが1件であんまりいい感想を述べられていなくてちょっと残念でした。
それぞれ読む人によって評価はいろいろなんで仕方ないです。